第12回 前提と目的を問い続ける必要性|Web月刊高校教育 高校教育を探究する!

この連載について

高校教育を取り巻く状況が大きく変わっています。そうした中、この先、どうやって魅力ある、特色ある高校に変わっていったらよいのか。中教審委員なども歴任し、高校教育界を牽引する田村知子さんと岡本尚也さん、お二方と共に「探究」していきます。
※本連載は田村さん、岡本さんに隔月交代でご執筆いただきます。

 連載は今回で最後となります。何を書くか迷いましたが、主な読者である教職員や教育委員会の方々に向けて、いくつかの論点を書きたいと思います。

学校・教員の在り方の変化

 学問の起源とされる古代ギリシャのアリストテレスらの時代から、印刷技術が発展したルネッサンスの時代、そして今の一人一人が情報端末を持ち通信環境が整備されている時代、それぞれにおいて学校・教員の在り方は転換期を迎え、変わってきています。現在においては情報と情報端末の普及により、学校や教員のみが授業も含めた質の高い教材や情報の担い手という時代ではなくなりました。

 また、私が高校生の時には「鹿児島は塾がないから学校・教員がその役目を行わなければならない」という地方都市の前提も、今となっては「塾の物理的な存在すら必要性が低下」しています。

 そのような中、学校・教員はそもそも何のために存在するのか? 不登校や広域通信制への進学が増える中、この前提を問い続ける必要性が増しています。

 本連載第4回「高等学校教育の意義」にて「期待」と「機会」の重要性について書きました。技術の進歩により授業や教材等、学びの「機会」が拡充されていても、学びに対する生徒自身の成長に対する「期待」や学校や教員の生徒に対する「期待」がなければ「意欲の格差」に繋がりやすく、学力や経験の差に繋がってしまいます。

 この「期待」の担い手こそが学校・教員だと考えています。生徒の変化を見逃さず、声掛けを行う。生徒に伴走し、共に学び続ける。なぜ学ぶのか? どのように学ぶのか? 外部との連携も含め問い続け、実践する。もちろん(校内、校外の)生徒間の刺激も大きなキッカケを生みます。学校・教員の「うちの生徒は〇〇だからできない」という考えは、学校や教員の存在意義すら失わせかねない発想となるので、何年後に咲くか分からない生徒の可能性を信じ、大いに「期待」して頂ければと思います。

管理職・教育委員会の在り方の変化

 学校のカリキュラムマネジメントについてお話をする際、「教育目標に立ちもどり①やめることを決める ②今行っていることを改善する ③新しいことを始める」という順序の重要性についてお話をしています。

 学校だけではなくあらゆる組織において①やめることを決めるプロセスは苦手です。一人一人は「やめても良い」と思っていたとことでもそれを組織の中で言い出すこと、決めることは難しいもので、業務の追加の連続に陥ってしまいます。あまりキラキラしたものではないですが、教育において変化が大きい今こそ、このやめることを決めるプロセスが管理職ひいては管理機関の優先タスクとなります。

 第2回に述べたように、高校教育は義務教育課程に比べ、設置者である都道府県や市町村の方針に強く影響を受けます。少子化・過疎化の進行から生じる統廃合、配信による授業、教員の適正配置(および確保)、無償化の波、不登校やその他の様々なトラブルに対する対応等、教育委員会は学校と異なり少しマクロなレンズで現状を見渡す必要があります。

 教育委員会のカバーする範囲は広いため、ここではほとんど書くことができませんが、最近気になることが一つあります。いくつかの教育委員会の方と情報・意見交換をする際、複数の方々から「最近、様々な教育に関するスローガンや概念が出てきているが、本質的な理解が不十分なまま、実践例だけが溢れ共有されている」という趣旨の言葉が聞こえてきました。

 探究、STEAM、非認知能力、データサイエンス、個別最適化、教育DX等、様々な概念がありますが、果たしてどこまで本質的な理解ができているでしょうか? ある管理職の方にSTEAM教育とは何ですか?とお聞きしたところ、しばらく考えた後に「3Dプリンターみたいなものを使う教育です」と言われたこともあります。特に探究に関しては教育課程に関わる文言であるにも関わらず教育員会、教育事業者においても本質的な理解が不足しているように感じます(第6回参照)。魅力的なスローガンに安易に踊らされることなく、これまでの学びとこれからの学びを繋げて欲しいと思います。

文部科学省の在り方

 学校現場や管理機関が前向きに理想的な教育を語り、実践できるようにクラスサイズの適正化や教員の就労環境の整備、現場では判断が難しい状況への後押しや情報提供のように、国単位でしか実現が難しいことを優先的に行って頂ければと切に願っております。

 

 ビジネス誌に書いて以来、年単位に渡る連載は久々でしたが、発行元である学事出版の方々、日々一緒に教育に向き合っている現場の皆様のお陰様で楽しく続けることができました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。これからも教育に従事していく者として私自身も研鑽を積んで参りたいと思います。皆様とご一緒できますことを楽しみにしております。

 


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